せせらぎの小道:原がん遺伝子

どうも気になるので前回の続き。

 正常細胞は4つのメカニズムを介して、がんを引きおこすような突然変異を獲得する。

一つめ:たばこの煙、紫外線、X線といった、DNAを攻撃してその化学構造を変化させるような環境因子による場合。

二つめ:細胞分裂のさいに生じるミスだ(細胞内でDNAが複製される度に、コピーミスが生じる可能性がある。たとえば、AがTやGやCに置き換わってしまうような場合だ)。

三つめ:変異したがん遺伝子が両親から子へと受け継がれる場合であり、その結果、網膜芽細胞腫乳がんといった遺伝性のがんが発生する。

四つめ:微生物界のプロの遺伝子の運び手であウイルスを介して、遺伝子が細胞内に持ち込まれる場合だ。

 

それら四つのどの場合でも、引きおこされる病理学的過程は同じである。増殖をつかさどる遺伝子経路が不適切に活性化されたり不活性化されたりして、結果的にがんに特徴的な無制御で悪性の細胞分裂が起きるのだ。

 

人類の歴史の中で最も基本的な病気の一つが、進化と遺伝という二つの基本的プロセスの障害を原因としているのは偶然ではない。がんは進化と遺伝の論理を二つとも利用している。そう、メンデルとダーウインの病理学的な収束なのだ。

がん細胞は突然変異、生存、自然選択、増殖を介して出現し、遺伝子を介して、その悪性増殖の仕様書を娘細胞に受け渡す。

がんというのはすなわち、新しいタイプの遺伝性疾患であり、遺伝と、進化と、環境と、偶然がすべて組み合わさった結果なのだ。

 

  遺伝子:シッダールタ・ムカジー  著  仲野徹 監修、田中 文 訳