せせらぎの小道:文明のありよう

中村桂子先生の著書:「科学者が人間であること」岩波新書:からの抜粋です。

環境問題の顕在化がありました。当時は公害という言葉が用いられましたが、典型例は水俣病です。海に排出した工場排水に含まれていた水銀が原因で、そこでとれた魚介類を食べた人々が神経障害を起こし、死亡者も出ました。特に衝撃を受けたのは、母親の摂取した水銀が胎児に濃縮し、胎児性水俣病が発症したことでした。胎児は母体の毒物から保護されているという常識は、ヘソの緒からの水銀検出という事実で覆されました。

 水俣病の存在が知られたのは1968年のことでした。有害物質を含む排水を海に流したのは、太平洋まで続く大量の水で薄められると考えてのことです。しかし、海は単なる水ではなく、そこにはさまざまな生きものが暮らしており、そこで生物濃縮が起きたのです。

 海中の食物連鎖の上位にある魚介類を食す人間に水銀が濃縮される。海を水として見て、生きものの場として見ない。これが進歩を求めた科学技術の基本にある考え方でした。これが結果的に悲劇を招いたのです。生物研究者としては、自然を自然としてみる、生きものの存在を見ることができない文明のありようにここではじめて気づき、衝撃を受けました。

 

・・生物学の総合化、そこから見えてくる生きものであるヒトとしての人間を知る、その知識を基に科学技術文明を築く。これが1970年に私が教えられた生命科学です。

中村桂子先生の論ずる「南方熊楠(みなかたくまぐす)」や宮沢賢治の姿にも大いなる共感を覚えます。そして先生の現代科学論、現代文明論から目が離せなくなりました。

これは命の哲学です。ヒトばかりではなく、ヒトをも含めた、命のありようを語っています。

写真は二本松市、菊、晩秋。

 

メモ

 文明が分明たるための三つの条件。不殺生、共存、公正、→地球意識

1.暴力を否定すること。殺すなかれ。

2.文明間の相互作用の重要性。世界を一元化するのではなく、他の文明があってこその各文明ということに気づく。文明間の共存が重要。

3.公正(equitability)