せせらぎの小道:無胃村

標題は無医村の間違いではない。1960~1980年代のつづきです。

医師免許を取得して(約50年前)研修医となった頃、「胃がん胃潰瘍が悪性化したものである」あるいは「胃がんの発生母地は胃潰瘍にある」という学説(あるいは通説)が医療界にあった。あえて医学界とはしない。

そういう学説のもとで、治癒が遅れている胃潰瘍や再発を繰り返す胃潰瘍の患者さんに盛んに胃切除術が施された。加えて十二指腸潰瘍という疾患もその中に組み込まれてしまった。(十二指腸がんは極めて希)。内科医も外科医もその診断と治療に邁進したわけで、その中の一人に私も入る。

かくして「胃腸専門病院」という単科病院の出現となり、「無胃村」という現象が出現した。村というのは「原子力村」と同じように必ずしも過疎地域を表す言葉ではない。

 

 胃潰瘍というものを長期に亘って観察し、それを動的に捉え「急性期、治癒期、瘢痕期」があり、そしてそれが繰り返され、必ずしも癌化するわけではないということを公表した学者がいた。(崎田教授・筑波大学)。

胃潰瘍の瘢痕像をレントゲン写真を撮って追跡し、積極的に胃潰瘍胃潰瘍と診断し、胃がん胃がんと診断しようとした学者もいた。(五十嵐勤先生・福島県医大、草壁彦夫教授・順天堂大学)。

五ノ井哲郎先生(福島県医大)は「日本人の胃潰瘍」という著書で、胃潰瘍症の疫学を公表し、胃潰瘍症の病態に鋭く迫った。

 

勿論、発がんに関しての研究も数多く行われていて、白壁先生は多くの協力者と共に「早期胃がんの姿」を世界に向かって提示し、それが世界的に認められ、現在は、いろんな診断器具の発達も加わり、胃がん胃がん胃潰瘍胃潰瘍、と積極的に診断できるドクター達が増えてきた。

「無胃村」という言葉も死語となってきました。この言葉は国語の辞書には無い。

 

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写真提供:ソロキャンパー石井さん。

薔薇の木に薔薇の花が咲く。なんの不思議もない?訳ですが、花の整合性(生物学的整合性)を確認し記録することで植物としての分類が成立し、世界中の人がその美しさに納得する。あるいは美しいと思ったからその謎に迫った?

 

五十嵐 勤 先生はその著書で、積極的に胃潰瘍瘢痕を胃潰瘍瘢痕と診断できる所見を記述している。「ロゼット模様」。この模様を写し、胃がんを除外したわけだ。

「胃の粘膜面が海よりも広い無限の広さを持つ世界に見えて、私は何時も呆然としてしまう」・・あるとき、先生がお酒を飲みながら話してくれた。無類の酒豪でした。

 

赤面しつつ訂正

 草壁彦夫→白壁彦夫

白壁彦夫 : 1969年、朝日賞受賞

 胃のX線二重造影法の開発とそれによる早期胃がん診断技術確立の功績