せせらぎの小路、炭疽病

先ず炭疽病について。(フリー百科事典、Wikipedia

 炭疽症(たんそしょう)、炭疽とは、炭疽菌による感染症。家畜や野生動物の感染症人獣共通感染症。ヒトへは、感染動物との接触やその毛皮や肉から感染する。ヒトからヒトへは感染しない。(伝染病ではない)。家畜伝染病予防法における家畜伝染病。ヒトに関してだが、感染動物の皮膚からの感染が多い。芽胞を吸い込んだり、汚染した肉を不十分な加熱で食べた場合にも感染する。自然発生は希。

炭疽とは「炭のかさぶた」の意味であり、英語名のAnthraxギリシャ語で「炭」の意味である。この名称は皮膚炭疽の症状で黒い瘡蓋ができることにちなむ。

ヒト、家畜を問わず致死率が高く、感染経路によってはエボラ出血熱やペスト(黒死病)に匹敵するほど危険な感染症となる。

 

牧場の兄弟(社会劇三幕)

 人物

  岩木源吉 兄 37才   

  同 源二 弟 33才

    かね 兄の妻 32才

    ひさ 弟の妻 26才

    ぎん 姪   18才

第1幕

 景。 東北地方にある小都会から、約半里ほど離れた牧場内の一牧舎。舞台の左半は流し場になっていて、その中に押し上げポンプ付の井戸がある。右半は土間、土間の中央には粗末な爐がきってある。まわりに手製のベンチ用の腰掛があって、爐には火が弱ってゆるい煙を立てている。(略)

その窓からは十月の日光を浴びた牧場の一部が見える。

 

久米正雄作、社会劇、牧場の兄弟はこうして始まる。(国立国会図書館デジタルコレクション より)

 東北地方のある都市に近い牧場岩木耕牧舎では、炭疽病のためにウシが5頭、死亡して、一ヶ月の売乳禁止が命じられた。

牧場主源吉は焦って、もう黴菌のないのをいいことに、密かに牛酪を密造し、牛乳を密売し、雇い人らは給料未払いでストライキをうとうとし、配達夫清蔵はウシの資料を盗み出して女郎買いにつかい、搾乳夫正吉は源吉の姪を目当てに牛酪密造を手伝い、源吉は弟清二の妻に横恋慕して言い寄る。

牧場経営を助けている弟清二は、この状態が分かり心を痛め、兄源吉を改めさせようとする。

妊婦の身で嫉妬に狂っていた義姉が、難産で死亡する。

翌朝、弟清二は不正な牛乳を搬出する兄源吉の現場をおさえ、あばきたてていさめる。兄源吉はこれに応じず、二人は格闘する。

兄源吉は、弟清二から妻への不倫な行為を責められ、自暴自棄になり、糧秣室に入り、錠をかけ、火を放ち、自殺を図る。

弟清二はおどろき、すくおうと焦りつつ、もうもうたる煙の中で狂ったように兄さん兄さんと連呼する。

 

中條ユリはこの作品から大きなインパクトを受け、一晩黙考したわけです。

*私はウシの炭疽病が引きおこした人間模様を澄んだ目で描き出し、戯曲という形に仕上げ、観客に考えさせるという、久米正雄の「芸術」に感じ入りました。

中條ユリの「貧しき人々の群」は、澄んだ目で描き出すということに加えて、人々と何時の日か「友達になろう」という強い意志を示している。共感というか。

*中條ユリには久米正雄たちが同情心の無い「おとなども」に映った事でした。

 

「貧しき人々の群」を現代流に端的にまとめる。

 不平士族の救済を大義名分として安積開拓が始まった。資本主義の中で、開墾した土地がいつしか一部の資本家のもとに集中し、開拓者たちは小作人に転落する。苦しい生活を強いられるわけです。そういう人々の姿を社会矛盾として捉え、中條ユリはそれらの人々、各個人に共感を示した、と言う事になるか。